目の前の電車に飛び乗ったら佐賀まで来ていた話

 

これは、1人のアイドルオタクの実話である。
深夜、目の前に突然現れた電車に飛び乗ったら、気づけば佐賀にいた。ちなみに九州在住ではない。ゴリゴリの都内在住である。

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軽く自己紹介させてもらうと、私は世界中のつらみとしんどみを煮詰めて生成した鬱イベント・就活&卒論を自担の顔のよさだけで乗り切り、晴れて令和元年に入社した新入社員のジャニオタだ。


もろもろの研修を終え、6月に配属されて本格的に社会人として歩みだした訳だが、毎日が慣れないことの連続で、本当〜〜〜に精神の疲弊がすごかった。希望通りの配属で先輩方も軒並み仏のように優しいにも関わらず、

「エッ…これから先40年くらい毎日労働すんのか…ヤバ…」

と揺るぎない真実に少し引いてしまったこともあり、なんかもうとにかく疲れていた。「僕はジャニーズJr.!」と自己暗示をかけ、自分はHey!Say!JUMPの八乙女光くんにあこがれ、いつかJUMP兄さんのバックにつける日を夢見て毎日ガムシャラにレッスンに通っているダンス未経験で身長159cm(本人は160cmと言い張る)14歳のフレッシュJr.だと思っていないと、やってられなかった。


疲れた人間が手を出すものは酒と、太古の昔から相場は決まっている。例に漏れず、私もドンキで購入したカルーアの大瓶をわずかな牛乳で割り、ハチャメチャに濃いカルーアミルクを夜な夜な飲むという暴挙に出ていた。


「あの日」は金曜だったこともあり、翌日の心配をしなくてもよかったので私は撮り溜めた番組を一時停止し、自担のほくろの数をひたすら数えるという有意義な時間を過ごしながらアホほど酒を飲んでいて、気づけばリビングのテーブルにつっぷして爆睡をキメていた。ここまで書いている自分でも思うけどダメ人間すぎて引く。
みなさま、職場に新人がいたらだいたい帰宅後はこんな感じだと思うので優しくしてあげてください。


その夜、私は夢を見た。
今まで見たことのないハチャメチャに顔のいい男の子が2人登場したが、とにかく謎の世界観だった。片方はぴちぴちつやつやのお肌を見る限りどう見ても20代だったが、わかりやすいつけひげをつけ、シルクハットをかぶって怪しげなマジシャンのような様相を呈していた。もう片方も吉沢亮さんによく似た本当に綺麗な男の子だったが、あやつり人形(?)の格好をしていて、先ほどの謎マジシャンに操られる人形という設定で超音波みたいな死ぬほど高い声で喋り続けていた。


酒で頭がぐらぐらしていたこともあり、訳がわからなかった。なにもわからなかったが、とにかく顔がいいことだけはわかった。よくよく見ると、2人の下には名前のようなものが出ている。なんと便利なシステムの夢なんだろう、少クラかよ、などとジャニオタ感満載の感想を抱きながら見ると、漢字三文字が目に入った。


超特急。


KPOPのグループか、と反射的に思うと同時に、衝撃を受けた。


日本語うっっっっま!!!!!


私は父親の仕事の都合で海外に暮らしていたことがあり、言葉の通じない異国で過ごす辛さは身にしみて知っている。仕事とはいえこんな訳の分からない格好をさせられ、異国の言葉で甲高い声で喋らされて…と、彼らの健気さに心を打たれ、なぜかちょっと泣いた。顔の良さで動揺していたのかもしれない。まぁ90%以上は酒のせい。


頬を涙が伝うあたりから、泥酔した私もさすがにこれは夢でないと気づいた。時刻は深夜2時を回っており、テレビは深夜番組を放送していた。私はテレビをつけっぱで寝てしまい、夢うつつのまま寝起きにこの映像をたまたま目にしたのだった。顔のいい人形&チョビヒゲの男の子ふたりのコーナーはあっという間に終わり、次のプログラムを映し出していた。


私はDDを自覚しているが、ジャニーズ以外の男性アイドルの界隈には全く手を出したことがない。ジャニーズのグループであれば、東で番協があると聞けば足を運び、西で舞台をやると聞けば新幹線に乗り、北でライブがあると聞けば飛行機に乗り、南はちょっと思いつかなかったが、とにかくガッツたっぷりに追いかけてきた。人生の半分以上はジャニオタなので、他界隈への興味はゼロに等しい。


そんな私が軽率に携帯で「超特急」と調べてしまったのは、国境を越えてまで追いかける気はさらさらなかったからだ。軽くグループについて調べ、さっきのメンバーの名前だけ確認して素敵な顔を拝ませてくれてありがとね、日本でも頑張ってね、と心の中でエールを送ってさっさと寝るつもりだったのだ。時刻は3時をとうに過ぎ、ハチャメチャに眠かった。


「超特急」の検索でその時真っ先に出てきたのは、YouTubeにアップされたMVだった。単純な興味から、私はあくびを嚙み殺し、歯磨きをしながら適当にその曲の再生ボタンをタップした。


度肝を抜かれた。
冒頭はなぜか歌ではなく、寸劇から始まった。


「ねぇねぇ、超特急って知ってる?」


犯罪者のように目元を隠された女の子が会話している。
なんかすごい攻めたMVだな。


「あ〜〜〜、確か韓流の人たちでしょ?」


横で、それを聞いていたメンバーがコケッ、とこける。


え?


「なんかぁ、超【ピー】(※規制音)のバッタモンみたいな人たちでしょ?」


ギャハハ、と笑い出す女の子たち。


え?


呆然としてる間にイントロが流れ、曲が始まった。
とてつもない曲だった。
息つく暇もなく、とにかくアップテンポで、すべてを巻き込んでぐんぐん上昇していくようなパワーと疾走感。


何に驚いたって、超特急は日本人だった。

日本語うまいの当たり前だった。母国語だった。

「モノホン」なんかなんなくて結構
そもそも誰が決めたんだReal or Fake?
信じたやつだけ 飛び乗れGet On
線路は続くよ? しゅっぽっぽ ぽー

名前の響きからKPOPだと信じきっていたこの時の私のように、韓流グループと混同されがちな自分たちは"バッタマン(=バッタモン)"だと言い放ち、それでも「モノホンなんかなんなくて結構」「信じたやつだけ飛び乗れGet On」と強気に畳み掛ける歌詞。


なぜか曲中に黄色い人が、すさまじい気迫で

「8号車ーーーーーーーーーー!!!!!!」と繰り返し絶叫するのだけは混乱したが、あとで「8号車」は超特急のファンの呼称だと知った。1〜7号車は各メンバーで、その次に連結した車両はファン。「メンバーとファンが一体となったグループ」というコンセプトが愛しい、と思った。ちなみに9号車はスタッフらしい。世界観がかわいい。

超特急で食ってきたい 食えなくたってやっていたい
まあ ようするに そばにいたい
笑顔をくれる8号車 笑顔にしたらはい勝者
泣きそうだ 走ろうや
きっと 君となら 叶いそうじゃん

めまぐるしい曲調なのに、歌詞のアツさが胸にストンと響いた。ガムシャラで負けず嫌いで、それでもファンへの大いなる愛に溢れた歌に、魂が揺さぶられた。

 

 

正直に言おう。このたった一曲のMVで、私は彼らにドハマリしていた。脳内麻薬がビシャバシャ出て、とにかく気分が高揚していた。ものすごい宝物を見つけ出したみたいな気持ちで、なんだこれ!なんだこれ!と繰り返し声に出したのを昨日のことのように覚えている。
初めて見た曲が「バッタマン」でよかったと、今になって心から思う。超特急には様々な曲調の曲があるが、「バッタマン」は"カッコいい"でも"カワイイ"でもなく、私がそれまで一度も目にしたことのない、極彩色で泥臭くて、それなのに眩しい、本当に稀有な曲だった。


YouTubeというものには恐ろしい機能がある。
「自動再生」
この機能に乗っけられ、私は差し出されるままに永遠に超特急のMVやバラエティを見ていった。MVをデビュー曲から最新曲まで全部フルで無料公開してるのを見た時はジャニーズ育ちのオタクは超特急の運営は正気か?!と本気で思った。しかもさすがにフルでないとはいえ、ライブ映像も軽率にぱんぱかアップしている。

YouTubeにアップされてる中でも特に好きなライブ映像なんですけど、多分この映像は5億回くらい再生した。全員の顔が良すぎて。超特急、今すぐにでもグループ名を「顔面強男(がんめんつよお)」とかに改名しても許される。

いろんな映像を見ながら、見せる表情がくるくると変わる彼らが万華鏡のようで、魅力的で、本当にワクワクした。メンバーがとにかく仲良しなのも愛おしくて愛おしくて、何度も笑って何度も涙がこぼれた。気づけば一睡もしないまま窓の外は明るくなり、夜が明けていた。


超特急に出会った2019年7月12日の深夜を、私は絶対に忘れない。ユーキくんとカイくんに人形とちょびひげという謎世界観コスプレをさせてくれた「次ナルTV-G」のスタッフさん、ありがとう。貴方達の作った癖(へき)大爆発の映像が1人のオタクの人生を変えました。
ユーキくんとカイくん、はちゃめちゃに綺麗な顔でこの世に生を受けてくれてありがとう。初見のジャニオタも衝撃を受けるほど顔が良かったので「俺たちはアホほど顔がいい」と胸を張って生きてください。そしてYouTubeを見ていく中で知ったけれど、メンバー全員信じられないくらい顔がよくてビビったので他のメンバーも各々胸を張ってください。

 


一夜明け、あらゆる映像を鑑賞してギンッギンに血走った目+思いっきり寝不足の頭で私は決意していた。
超特急の現場に行こう。行くったら行こう。
楽曲天才、ダンス天才、顔が天才、メンバー仲良しの4拍子揃ったらもう現場に行かないと気が済まない。生で彼らのパフォーマンスが見たい。彼らのエネルギーを肌で感じたい。
私はもともと現場至上主義のオタクで、去年は就活と卒論に追われていた大学4年生のはずにも関わらず、なぜか年間現場数が50を超えていた。単純計算すると1週間に1回は何かしらのグループのコンサートや舞台、イベントに足を運んでいた計算になる。アホなのかな???


朝日を浴びながら超特急さんのライブ日程を調べると、彼らは全国ホールツアー「EUPHORIA」の真っ最中だった。今は7月13日、オーラスは8月17日。ツアー終了まで約1ヶ月ある。まだ間に合う!!!
そこからの私の動きは早かった。何が何でもライブに行くと決意し、チケツイを探す日々が始まった。「相場理解」の文字が並ぶ検索画面にはやや気が滅入ったが、私はどうしてもきちんと胸を張って「初乗車」したかった。(※あらゆる用語が電車要素になる超特急界隈ではライブに行くことを「乗車」というし、メンバーの欠席は「車両点検」という。世界観がちゃんとしてる界隈、かわいすぎてラブである。)
定価のお譲りツイートをしてる人にはやはりリプが殺到していて、さすがに無理かなぁ…と思いながらも私は自分がつい数週間前に超特急を知ったばかりの身であること、テレビで見た彼らから目が離せず、調べていくうちに夢中になっていたこと、どうしても生で彼らのパフォーマンスを見てみたいことをド正直にDMで送った。
まさかその方も私が次ナルTV出の、KPOPグループだと信じ切ったまま沼にドボンした人間だとは思わなかったと思うが、お譲りします、楽しんできてくださいね、とメッセージを貰えた時は携帯を握りしめたまま電車内で思わず飛び上がった。夢みたいだった。こんなド新規でもいいのか、と何かに許されたような気分だった。


そして話はタイトルに戻る。


気づけば私は佐賀にいた。理由は単純、定価で譲ってもらえたチケットが佐賀公演だったからである。
チケットが手元に手に入った時点で公演2週間前を切っていたが、そこから秒で宿と飛行機の予約は完了していた。ジャニオタ、友人から誘われることも多いため突然の遠征の手配には慣れっこである。1ヶ月前までは超特急のちょの字も知らなかったのに、気づけば九州に飛んで、足を踏み入れたことが一度もない佐賀にいるのには自分でもウケてしまった。運命って面白い。


ハマってから過去のアルバムと円盤は怒涛の大人買いしたので主要なものほぼほぼ揃っていたが、とにかく円盤で見る限り、超特急の現場はファンのコールと振り付けの一体感があまりにすごすぎて、実を言うと佐賀に着いた時の私は気がかりで胃が痛かった。付け焼き刃の予習であのレベルのコールができる気がしない。ろくにペンラも振れない奴が足を踏み入れてしまっていいんだろうか。あやふやなまま現場に入ってしまったら他の8号車さんにペンラでどつき回されるんじゃなかろうか。一人でノコノコ来てしまったことを後悔するくらい、正直この時の私の楽しみと不安の比率は3:7くらいだった。


キリキリと不安に胸を痛めながら、グッズも販売されるので、17時開演とはいえ午前中には会場に向かった。
会場について、思わず目をこすった。
すごかった。色の洪水。原色の暴力。みんな推しの色を身につけないと死ぬ病みたいになっている。
もちろんジャニオタもメンカラを身につける文化はあるが、どちらかというとパステルカラー♡フリル♡メゾンドフルール♡みたいなオタクが多かったので、ここまで全員が色を主張してるのには度肝を抜かれた。でもみんな、「私は〇〇くんが好きです!!!」と全身から愛をほとばしらせているように見えて、私は眩しかった。素敵だと思った。


しかし、一人。孤独にも程がある。別に今までも一人で遠征したことは腐るほどあるし行き先が北海道だろうが福岡だろうが一人で飛行機に乗ってきたわけだが、その時は会場に行けばなかよぴのフォロワーがわんさかいたのであり、こんなマジマジのマジのぼっちは初めてであった。グッズ列も当然ぼっちな訳だが、私にはコール以外にも気がかりな大問題があった。それはファンクラブへの入会である。超特急さんは会場入会特典というものがあったため、私はこの日の佐賀公演でFCに入会する気満々だった。(ちなみにFCの名前は「夢の青春8きっぷ」。どこまでも可愛い。夢かな?)この会場入会には友人紹介特典というものもあり、すでに会員の友人と一緒に窓口に行けば限定のポストカードが貰えるという、オタクの心がワクワク躍る特典も用意されていた。


え、初乗車の記念にめっっっちゃ欲しい。


しかし、繰り返すが私はぼっちなのである。選択肢は一つ、窓口に一緒に行ってもらえませんか、と見知らぬ誰かに声をかけるしかない。紹介者も同じポストカードが貰えるのでwin-winのはず。誰か付き合ってくれないだろうか…と悶々と考えながらグッズ列に並んでたので、私はさぞかし険しい顔をしていただろう。
深呼吸を繰り返し、列で真横に一人で並んでいたお姉さんに意を決して声をかけられたのは並び始めてから1時間以上経った時だった。コミュ障発揮しすぎ。
ずっと悶々としていたのがアホらしくなるくらい、その方は本当に優しい方だった。死ぬほどあっさり快諾してくれて、お一人かと思ってたら後からご友人が合流したのでこれはもうお邪魔しないほうがいいな、と気配を消していた私に2人でめちゃくちゃ話しかけてくれた。「今回入会するってことは初乗車ですか?!」「何がきっかけで好きになったんですか?!」から始まり、その方たちもジャニーズを掛け持ちしていたこともあり異様に話が盛り上がった。すごく嬉しかった。心がほこほこしたまま、窓口で入会特典を受け取った後にお礼を言ってそのまま別れようとした瞬間「一緒にお昼ご飯食べよ〜!」と誘ってもらえた時にはさすがに「えええ?!?いいんですか!?!?!」とクソデカボイスで叫んでしまった。


次ナルで超音波のような高音で喋り続ける人形を演じていた衝撃から抜け出せないまま5号車のユーキくんに惹かれていることを告げると、お二人は違うメンバーのファンだったけれど、「ユーキくんはここがいい!」とたくさん教えてくれた。ユーキくんの写真も、惜しげも無くめちゃくちゃくれた。一人で開演を待つ予定だったのに、ずっと超特急についておしゃべりできた。幸せだった。誰かに布教された訳でもなく、一人で勝手に沼入りした孤独な人間にとって、夢のような時間だった。

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開演30分前、一緒に会場に向かって歩きながら「初乗車の感想が聞きたいから、終わったら待ち合わせよ!」と言われ、集合場所を決めた。もう一人じゃない、という気持ちで会場入りも全然怖くなかった。ペンラもコールも完璧じゃないけれど、まぁどうにかなる、と思えた。買ったグッズを身につけると全身真っ赤になってしまったけど、気恥ずかしさよりも嬉しさが勝った。会場に溢れる原色の洪水の一部になりながら、誰かを好きになるっていいな、と私は改めて思いながら席に着いた。ちなみに二人は「一人だと心細いよね」と席まで送り届けてくれた。優しいとかを通り越して、なんかもう福利厚生がすごすぎる。


驚きはまだ続いた。


「あの、ユーキ推しですか?」

声をかけられて見ると、隣の真っ赤なお姉さんが私にユーキくんのクリアファイルを差し出してくれていた。

「これ、めちゃくちゃ余ってるのでよかったらどうぞ」

 

な、なん、なんなんだこれは。何が起きているんだ。10年以上ジャニオタやってるけど、同担拒否は聞いたことがあってもさすがに同じメンバーが好きな人からグッズをもらった経験はない。こんな優しい世界があるのか?!?


ありがとうございます!!!!!と頭を下げ、ついでに実は今日が初乗車なんです、と告げた。


「えっ!!!初乗車?!」


反対側に座ってたお姉さんも身を乗り出して話しかけてくれた。「すごい!まだまだファンが増えてる!嬉しい!」「超特急を好きになったきっかけは?!」にわかに周囲がにぎやかになった。両側はそれぞれ2人組で参戦していたから、私も含めて5人で開演直前までお喋りした。今思うと、みんなぼっちで初乗車の私を少しでも勇気づけようとしてくれたのかもしれない。こんなにも見知らぬド新規をアットホームに受け入れてくれる世界があるなんて、と私は心底感動していた。たまたま私の両隣は二人ともユーキくんのファンで、「ユーキ推し3連だ!」と喜んでくれた。赤いペンラが並んでいることが、私も無性に嬉しかった。隣のお姉さんは「振り付けが分からなかったらマネして!」と笑ってくれた。初めて出会った人と、こんなにも意気投合ができる。グッズ列で知り合った2人がたまたま死ぬほど優しいのかと思ってたけど違う、8号車さんがみんなあったかいんだ、と目頭が熱くなった。超特急が愛に溢れたグループだから、ファンの皆さんもあったかいのかな。佐賀、本当に来てよかったな。


心がほこほことあったかいまま始まった「EUPHORIA」の佐賀公演を、私は生涯忘れないだろう。


目の前に現れた超特急は、画面越しじゃ比べ物にならないくらいの生命力とまぶしさを放っていた。ホールツアーだったこともあり、距離の近さにも圧倒された。Jr.担向けに解説すると、私が足を運んだ「佐賀市文化会館」はEXシアターと同じくらいのキャパだった。ヤバすぎ。
会場の隅から隅までみんな巻き込んで、誰一人取り残さずに気持ちを掴んで持ち上げてくれる高揚感。「まだまだ上に行くぞ!」「8号車もメンバーの一員だから!みんなで一緒に行こう!」とほとばしる前向きな熱意。現状に満足せず、貪欲に上を目指し続けるグループ特有のきらめきとポジティブなパワーに心臓が震えた。そこには、頂点を目指す者だけが共有できる、ガムシャラな熱狂があった。


イントロが流れ出した瞬間に一糸乱れず振られるペンラは、8号車から彼らに届ける愛の具現化だと思った。美しかった。私はへぼへぼだったけど、それでも隣の2人の見よう見まねで全身を使って愛を伝えるのは楽しくてしょうがなかった。円盤で見て、ずっとやりたくてウズウズしていた「口上」ができたのも嬉しかった。
これは超特急さんが毎度ライブで欠かさずやる自己紹介のことで、必ずファンとのコール&レスポンスを挟む。以下は5号車ユーキさんの口上なのだけれど、みんな個性豊かで天才の所業でしかないので他界隈の人もぜひ「超特急 口上」で調べてみてほしい。


生まれは徳島 阿波の国 「よっ!」
踊りの聖地で誕生しました 「いいぞ!」
側転 バック転 ロンダート 「ぐーるぐるー!」
舞の奥義を習得し5号車ドジっ子名誉に預かる 「よっ!日本一!」
たまにやっちゃう世にも奇妙な過ちも
見方を変えればキュートな愛嬌
今日もみんなWe are〜? 「Happy!」
5号車ドジっ子担当 イメージカラーは赤 
メインダンサーのユーキです! 「ユーキ!」


お人形さんみたいに作り物めいた美麗すぎるお顔なのに数多くのド天然エピソードを生み出してきたドジっ子担当なのが尊いし、それに対して「よっ!日本一!」と声高に叫べる空間も多幸感に溢れすぎていた。赤いペンラを掲げながら、楽しすぎて、ちょっと泣いた。超特急にはうちわ文化はないみたいだったが、これがジャニーズの現場なら、「ユーキくんは徳島県重要文化財」という自作うちわを持ったのに、とそれだけが悔しかった。


序盤は「超えてアバンチュール」や「Summer Love」など多幸感に溢れたアップテンポな曲が続いたが、中盤は「Fashion」など笑顔封印なシックで色気に満ちた曲もあり、レーザー光線を使った演出もあってギャップで息が止まりそうだった。超特急天才だ!と思ったのは、そういったコーナーに入る前にスクリーンに「ペンライトを消してください」という旨の告知が入ること。それまで総立ちで全身を使ってペンラを振り、コールを叫んでいたファンもスッと座り、静かに双眼鏡を構える。盛り上がる曲がある一方で、きちんと双眼鏡鑑賞タイムが用意されている有り難さ!


ユニット曲はメンバー同士で向かい合い、身体を擦り付けあうセクシーな振り付けに会場が絶叫に包まれたり、美声に合わせてコンテンポラリーダンスで全身を使って曲の世界観を演じたり、メンバーのピアノ伴奏に合わせて狂気に満ちた目つきで踊り狂い、最終的には自ら首を掻き切って命を絶つ、という憑依型の壮絶なパフォーマンスをする姿に息を呑んだり、本当に凄まじい世界観だった。コンサート中はユーキ推し3連だったこともあり、「ギャーーーーーーーーー!!!」となる瞬間が一緒だったのも死ぬほど楽しかった。なんども隣で顔を見合わせ「ハ?!今の?!なに?!ヤバくない?!」と目で訴え合った。


MCでユーキさんが「初乗車の人〜〜〜?」と問いかけてくれた時は、私がおずおずと赤ペンラで挙手すると両隣の四人がプロフェッショナルの動きでペンラをぶん回して全力アピールしてくれた。赤が並んでいたからだろうか、あっ!と気づいたユーキさんがこちらを指差して笑ってくれた、あの顔。思わず膝から力が抜け、花がふわりとひらいたような愛らしい笑顔に声も出せずに悶絶していると、みんなよかったねぇ!よかったねぇ!とめちゃくちゃ祝福してくれた。あったかい。あったかすぎる。


初乗車は熱狂のうずに巻き込まれたまま終わり、私は連番状態で一緒に盛り上げてくれた隣のみなさんに心の底からの感謝を込めて何度も何度もお礼を告げ、夢遊病者のように夢みがちな足取りで会場を後にした。

会場の外ではグッズ列で出会った二人が待っていてくれて、私は大興奮のまま「めちゃくちゃ楽しかった…!!!!!」「なんかもう……生きててよかった…!!!!!」とゴミみたいな語彙で感想を興奮気味に伝えた。多分あの時の私は偏差値3くらいだったと思う。それでも二人は嫌な顔一つせず、優しくうなずきながら聞いてくれた。佐賀駅までお二人に見送ってもらったが、駅に向かう途中、連番してくれたユーキ推しさんとそのお友達のカイ推しさんにばったりもう一度会えたのも感動した。

「あのお二人も含めて、周りの人が本当に優しくしてくれて!!!」

「見てたよ!一人で大丈夫かな、って気になってチラチラ様子を見てたけど、初乗車の人〜!の時に周りがみんな一緒になってアピールしてあげてたからちゃんと優しい人に囲まれてるんだなって安心した!」

ライブ中も気にかけてくれてたのか、と私はまた目頭が熱くなった。こんなにも、幸せな気持ちになれるライブがあるんだな。佐賀駅に着き、私は二人の姿が見えなくなるまで何度も何度も手を振った。


次の日には福岡空港から帰る予定だったので佐賀から福岡に向かう特急電車に乗り、車窓から流れていく景色を眺めていたが、一人になったら、なんだか無性に涙が止まらなかった。コンサートタオルで拭いても拭いてもぽろぽろ溢れる涙を、繰り返し拭った。

超特急に、超特急を愛する人たちに、出会えてよかった。

 


………と、ここでブログを終わらせることができればめちゃくちゃ綺麗なのだが、この遠征は残念ながら平穏無事には終わらなかった。

泣き腫らして顔をパンパンにしながらもスッキリと晴れやかな気持ちで福岡に着き、夜ご飯に福岡ラーメンを食べ、予定していたホテルにチェックインし、お風呂に入り、シャワールームから髪を拭きながら出たところで、はたとあることに気づいた。


「………パジャマは?」


その刹那、めちゃくちゃ嫌な予感がした。ちょっと待って、てゆうか私、今更気づいたけどいくらなんでも身軽すぎない?

なんと私は、スーツケースを佐賀駅のロッカーに残してきてしまっていた。

これまで何百回と遠征してきて、スーツケースを丸ごと忘れたのはさすがに初めてである。どんだけ夢見心地だったんだ。初乗車に飲み込まれすぎ。超特急さんすごすぎ。

 

手元にあるのは参戦した時に着た汗と涙が染み込んだべちょべちょの服とペンラとグッズと財布。以上である。

替えのパンツすらなく、私はその夜はすっぽんぽんで寝た。昨日の参戦服をもう一度身につけ、翌朝に私は泣く泣く佐賀へ戻った。佐賀と福岡は往復3時間ほどかかる。さすがに虚無すぎた。マジで帰りの飛行機が遅い便でよかった。


このことをツイッターで報告すると、連番で仲良くなって相互フォローになったカイくん推しのお友達から「わたしのユーキ推し友人は確実にドジっ子多いよ!推しに寄るよ気を付けて😈!まずはツイートに誤字が増えるでしょう(預言)」とのリプライが来た。マジか。私までドジっ子になってしまうのか。ユーキさんのドジはめちゃくちゃ可愛いけど私のドジは可愛くもなんともないのでこの現象には抵抗したい。


最後にバタバタはあったが、往復3時間かけて佐賀駅のロッカーに取り残されていたスーツケースちゃんを回収し、私は東京に戻った。超特急に出会ってから、わずか1ヶ月後の出来事だった。


これが「目の前の電車に飛び乗ったら佐賀まで来ていた話」である。このブログを綴っている9月現在、私はどうなっているかというと10月に名古屋で行われる超特急とメ〜テレコラボのトークイベントのチケを押さえ、なぜか12月から始まるアリーナツアーは全通することになっている。超特急さん、ジャニーズと違ってなぜか一次二次…と何度もチケを申し込む機会が与えられるので繰り返しチャレンジしたら全部当たる。怖い。現場至上主義オタクに合いすぎている。


このブログを書いてる現在も超特急に出会ってからわずか2ヶ月後なので、人間本当に何があるかわからない。一寸先は沼。でも一つだけ言える。超特急を好きになってから、本当に本当に本当に毎日がカラフルで楽しい!!!ド新規にこんなに優しい界隈はなかなかないです、まずは手始めに「超特急」で検索してみませんか。


あなたのご乗車、心よりお待ちしています!